【『夢造』のはじまり vol.3】仕上げには、能登で漉く和紙を
2025.11.19

ウイスキーブレンダー輿水精一氏と共に造った能登復興支援酒「夢造」。錚々たる造り手とのコラボレーションによって実現したプロジェクトを、これまで対談インタビューと試飲レポートによってお届けしてまいりましたが、今回はその「夢造」のラベルについてご紹介いたします。
「夢造」は、多くの方からの能登への想いがつまった日本酒です。その最後の仕上げとして、ラベルは能登の造り手の想いが込められたものが最適だと考えていました。
『能登仁行和紙』は独特の作風で知られ、全国にもファンが多い紙漉き工房。能登の自然を盛り込んだ3代続く技術を、ラベルを通してさまざまな場所で日本酒を手にするお客様に感じていただければと、ラベル用の和紙を制作いただくことになりました。
今回その制作風景を見せていただけるということで、石川県能登半島・輪島市の山側にある工房へ足を運びました。

能登半島地震で大きな被害の出た輪島市。道すがら道路工事や屋根のブルーシートなどが未だ多く見られ、今もなお震災の爪痕が残っていました。
『能登仁行和紙』の工房は、のどかな雰囲気が漂う仁行(にぎょう)地区にあります。工房を取り囲むように澄んだ川が流れ、その瀬音が豊かなBGMになる静かな場所です。

出迎えてくれたのは遠見和之さん。『能登仁行和紙』の伝統を守る3代目です。『能登仁行和紙』がつくる和紙は様々な種類がありますが、能登の風土そのものを漉きこむような手法が特徴。その始まりについて遠見さんが話してくれました。
「私の祖父(初代・遠見周作さん)が戦時中、満州の医療班で活動していまして、その時に現地の紙作りを学び『日本に帰ったらこれを生業にしよう』と思っていたそうです。そうして帰国後に制作を始めました。通常、和紙は楮(こうぞ)という植物の繊維を使って作るのが一般的ですが、近所の製材所で廃材として積まれた杉の皮を見つけ、同じ植物の繊維だということで紙にするのを思いついたんだといいます。日本でも和紙があまり使われなくなってきた時代だったもので結構苦労をしましてね、色々アイディアを練っていたんだと思います」。
杉皮の紙を成功させた初代・周作さんは、その後も身近にあるあらゆる植物で和紙作りに挑戦したそうです。

2代目の遠見京美さんの活躍もあり、多彩な植物の種類を使用しただけでなく、野に咲く草花を摘み集めて和紙に漉きこむ「野集紙」という作品シリーズも誕生。まさにこの周辺の風景を紙の中におさめたような、素朴さや穏やかさが作品に表れています。
「野集紙に使う草花は、自然に生えた野花や野草でないとなぜかきれいな色が出ないんです。品種改良された花や人工的に植えた植物だとなぜか滲んだり退色してしまうんですが、自然の花だと年数が経ってもきれいなんですよ」。その原理は分かっていないそうですが、自然の力の偉大さが感じられます。

古く、日本海の交流拠点であった能登ですが、都市部からの距離も相まって、独自の食文化や祭礼文化など様々な習わしを発展させてきた経緯があり、今もその昔からの伝統が色濃く残る土地でもあります。『能登仁行和紙』の作品の成り立ちも同じく、和紙作りを続けていくために試行錯誤した結果、守り続けられてきた民芸作品として現在も多くの人を惹きつけるのではないでしょうか。私たちは、今回の能登復興支援酒「夢造」のボトルに添えるラベルとして、これ以上なく相応しい和紙だと確信しています。

「夢造」のラベルには、3代目・和之さんが考案した「土入り紙」を採用することになりました。能登には「能登はやさしや土までも」という言葉があり、地域の人々の温もりあふれる人柄や、農の風土が表現されています。
今回使用した輪島の珪藻土は和紙に漉きこむと少し黄みを帯びますが、珠洲の珪藻土になると赤みが強いそうで、能登の中でも地域によって色が若干異なるというのも興味深く感じます。

原料は自分で山に入って仕入れることもあると言い、加工も自身で行うという和之さん。
「原料となる植物は皮を剥ぐことから始めますし、珪藻土もブロックのものを砕いて擂ります。基本は手作業。その方が細かな調整がきくんですよ」と話します。
今回のラベルも、珪藻土の粒をどのくらい残すかが難点だったとか。珪藻土のブロックは砕いて粉々にし、擂った砂を水に溶かして粒の大きさを調整するために何度か濾して使うのです。
「ラベルの場合は紙の上に文字を印刷して使うので、あまり厚さがあると印刷ができないんです。個人的にはもう少し大きな粒の土を残したい気持ちもありましたが、濾す回数を増やして調整をおこないました」。

紙の原料となる楮は皮を剥ぎ、煮出したあとに叩いて繊維をばらします。漉き舟と呼ばれる大きな容器に水をはり、繊維などの原料と合わせたらやっと紙漉き作業の準備完了です。
漉き舟の中に手桶半量ほどの珪藻土を加え、「微妙な量なんですが、このくらいで紙の質感が変わってくるんですよ。自分の経験と感覚が頼りです」と。そして珪藻土を均一にするため勢いよく液を攪拌しました。

ラベルの大きさで枠を組んだ漉桁(すきげた)を原料液に沈め、すくい上げてから揺り動かし繊維を絡ませます。厚さを見ながら何度か繰り返し、水が落ちたら枠を外すという流れです。その後、圧縮して水分を抜いたら乾燥機に貼り付けて完成します。

「夢造」はたくさんの職人たちが携わった、言うなればクラフトマンシップが凝縮された日本酒。私たちはものづくりをおこなう企業として職人の手仕事に敬意を表し、この地域に根付いた伝統の技を私たちの日本酒を通して多くの方に知っていただきたいと考えています。
「お酒を手に取った方に一番見ていただきたいのは“耳”(枠の形のまま自然についた緩やかな輪郭)の部分。お酒のラベルに和紙が使われているものはよく見ますが、その多くは大きな和紙を刃物で切りそろえたシャープな切り口のラベルやちぎって輪郭を演出したものばかりなんです。今回の日本酒では、ぜひ1枚1枚表情の違う“耳付き和紙”の風合いを楽しんでもらいたいです」と和之さん。
耳付き和紙は手間暇かけた手漉き和紙の証です。原料を山や海で採取するところから始まり、一つの紙が出来上がるまで、およそ2週間。効率化、簡略化が進む時代とあえて逆行することを貫くところに、和之さんの職人としての美学を感じます。

お話しを伺っていると、穏やかながら生粋の職人気質が垣間見える和之さん。
「正直なことを言うと、自分の和紙がどんなところに使われているのか知らないことも多いんです。知り合いに“すごい場所に使われてたよ”なんて教えてもらうこともあって。私は自分の依頼主からのご要望と向き合うだけですから。あえて自分の中にたくさんの情報はいれないようにしています」。
兎にも角にも紙作り。そんな和之さんの仕事に対する真っすぐな姿勢は、どこか農口杜氏の酒造りへの思いに通ずる部分があるような気がします。

2024年の元旦、地震があった時もこの工房で作業をされていたという和之さん。建物は無事でしたが、内部はあらゆるものが崩され、揺れがおさまってからもしばらく呆然としていたといいます。水を貯めておく用具や乾燥機も傷んでしまい、自身で修理をされたそうです。
「4月には制作を再開しましたが、なかなかうまいこと作業ができなかったですね。勝手が違ったり、あったものもなくなってしまっていたり」
取材は地震から1年以上過ぎた2025年の3月でしたが、地震前のような状態で仕事ができるようになるにはもう少しかかりそうとのこと。

「夢造」は売り上げの一部を令和6年能登半島地震の復興支援義援金とさせていただくことも含め、多くの方々の能登への気持ちが込められたプロジェクトです。そのラベルを担うということに関して「とても光栄でうれしい」と和之さんは目を細めていました。
お酒を手にした皆さまには、ぜひラベルに触れてその感触を確かめてみていただきたいと思います。能登の美しい風土や文化、日本の原風景が残るおだやかな空気感が、思わず頭に浮かんでくる、そんな素敵な和紙ラベルに仕上がっています。どうぞ細部までお楽しみいただき、日本酒とともに能登の未来に想いを馳せてみてください。


