新たな米焼酎に施された黒い「加賀水引」の本質とは。
2026.03.16

農口尚彦研究所は日本酒を醸す酒蔵ではありますが、近年では日本酒から派生して生まれた「焼酎」も展開しています。5年前から販売している「酒粕焼酎」は多くのお客様からお喜びの声をいただいており、その焼酎第2弾として私たちが3年間あたためてきたプロダクトがこの度発売になりました。
『農口尚彦研究所 米焼酎』(720ml / 7,700円(税込))
「酒粕焼酎」には澄んだクリアなボトルに小松の織紐工房『織元すみや』の真田紐を添えて販売していますが、今回はブラックのボトルにブラックの水引を添え、シックでモダンな世界観の一本に仕上がりました。

今回は、その水引を制作してくれている加賀水引発祥の老舗『津田水引折型』をたずねました。石川の伝統工芸として知られる加賀水引。そもそも水引とは何なのか、現代における水引の解釈とは、などを紐解きます。

実は“水引”とは紐で作った飾り細工のみを示した言葉と思われがちですが、本来は紙で包む“折型”を施した品物に、飾り紐で封をし、表書きを記す――その一連と合わせて使われる言葉。
金沢市にある『津田水引折型』の店舗では、水引細工の販売や体験教室などもされていますが、本来主体となるのは伝統的なラッピング業です。店舗には、日々たくさんの贈答品が持ち込まれます。持ち込まれた品物は、お渡しする用途や相手などのヒアリングを経て、それに合った装飾が施され、再びお客様の元へと戻ったのちに贈り先へと渡っていくのです。

「水引は、渡す相手への敬意や大切に想う心を表した、言葉を介さない無言のコミュニケーション。そこには日本人が昔から持つ美しさや奥ゆかしさが宿っているんです」と話すのは、『津田水引折型』5代目・津田六佑さんです。
水引の歴史を紐解くと、飛鳥時代まで遡ります。遣隋使である小野妹子が中国から持ち帰った品物に紅白の麻紐が結ばれていたことが起源と言われ、当時の日本はそこに3つの意味があるとして受け取ったそうです。

まず1つ目は、魔除けの意。当時の天災や海賊など様々な災いに影響を受けやすい航海を守り、無事に品物を運べるように願いを込めたのではないか。
2つ目に、縁結びの意。国と国の交流開始に伴い、中国と日本の関係がこれからも深く結ばれるようにとの気持ちが示されていたのではないか。
最後に、封印の意。麻紐には色が塗られていて、紐を解くとその顔料がとれてしまい、元に戻すことはできません。そこから、この品物は途中で開けられることなく届いた安全な状態であることを示していたのではないか。
この3つの意味は、現在でも水引の土台となっているのだそうです。

時代は進み、日本における望ましい行動様式などをまとめた礼法が制定され、その中に贈答の場面で水引を使用することが示されるようになります。
明治時代に民間に広まっていた水引は、箱や入れ物にぴったりと紙を沿わせたフラットな包みで、結び目もあわじ結びというシンプルなものでした。その中で、当時結納業を営んでいた六佑さんの高祖父・津田左右吉氏は、水引の研究を通してこのギフト包装をより相手に気持ちを伝えられるよう更に進化させたいと考えるようになったそうです。


芸術に精通した家系の出身だった左右吉氏は、包む和紙をふっくらとさせ、品物の中央を水引の紐で結ぶことで、ボリューミーなデザインを完成させました。華やかな折型に合わせて、水引細工も様々な形のものが誕生。これが伝統工芸「加賀水引」の源流です。
それまでの平面的なデザインに、立体的なデザインが加わった加賀水引の世界。それは現在まで脈々と受け継がれ、ご祝儀袋や結納品でもお馴染みの姿として現代の主流となっています。
津田さんは、「水引の歴史を紐解くことで、その成り立ちや意味合い、歩んできた道のりを知ることができ、それが本質の理解へとつながっていく」と語ります。

普段から物事の真理を考えることが好きだと話す六佑さん。
「水引は本来の封印というセキュリティの意味からすると、プロフェッショナルな職人が特殊技術を使って結ぶということが前提にあります。近年では様々な企業様からお声掛けいただくこともありますが、そういう場合この前提はオペレーション上難しい。しかし、現代におけるギフト包装とは何かを大切にすることで、伝統的な水引を扱う私たちも様々な方法で本質的なサービスを展開できると思っています」。
水引を深く追求したのち、無駄なものを全てそぎ落とし、再びプロダクトを生み出すという新たなプロジェクトもおこなっています。

参照:https://kagamizuhiki.com/?pid=188326120
例えば『#000』は、六佑さんが立ち上げた黒の持つ美しさと神秘の力を再認識し、石川の工芸に落とし込むプロジェクト。この写真はそこに出品されている『津田水引折型』の祝儀袋です。
「水引の機能面の一部は、現代のほとんどの場面において不要になっているのも事実」という考えから、気持ちを伝えるツールという本質は残しながらも、現代における不要な機能を削ぎ落としたお札を贈るためのギフト包装。さらに単色の黒を選ぶことで、フォルムや技巧、デザインといった工芸の本来の魅力を際立たせています。
六佑さんの持つ逆転の発想や新たなものを生む力は、どこか初代・左右吉氏を彷彿とさせます。それは、今ある伝統文化もそのようにして新たな価値観によって進化を遂げながら受け継がれてきたという証であると示しているようにも見えました。

今回、当蔵の新しいプロダクトとして生まれた米焼酎には、黒の水引を添えました。
黒はすべての色を受け止める色であり、装飾を削ぎ落とした先に残る“本質”を映し出す色でもあります。
日本酒の世界もまた、時代とともに姿を変えながら、その真髄を受け継いできました。その思想を重ねるように、私たちはこの黒い水引を選びました。
ボトルに施されたその一結びには、伝統を守るだけでなく、進化させるという意志が込められています。
ぜひ米焼酎をお手に取られた際には、農口尚彦研究所と津田水引折型が表現する、私たちなりの“ラッピング”にもご注目ください。この結びに込められた、本質を問い続ける姿勢まで感じていただけましたら幸いです。


