「乙巳年 迎春宝船ボトル 九谷焼 田村星都作」ができるまでvol.1
2024.12.20
師走を迎え、 本年もたくさんの感謝をして振り返る時期となりました。
この度、来たる2025年に向けて、当社では初めての試みである「迎春宝船ボトル」を販売いたします。長期に渡り温めてきた企画であり、おめでたい新年の幕開けに相応しい商品にできればと精力を注いでまいりました。
「農口杜氏の象徴」とも言える山廃純米大吟醸もさることながら、それを詰めたボトルも特別なもの。お酒を楽しんだ後にも、作品としてたのしめる瓶として制作いたしました。
今回のコラボレーションにお迎えしたのは、石川県白山市に本社を置き“世界一の白さ”と評されるボーンチャイナの金字塔『ニッコー株式会社』様。そして、石川県小松市に工房を構え、一世紀にわたる家伝の技法「九谷毛筆細字技法」を用いて磁器に繊細な文字を描き込む『田村星都』さん。
本記事では、この干支ボトルができるまでの過程で、どのような技術や思いが込められているのかを2回にわたってお届けいたします。
このvol.1では、世界的な広がりをみせるニッコー様の技術と品質に迫るため、酒瓶を制作いただいているニッコー様の工場を訪れました。
ニッコー株式会社様は、1908年に「日本硬質陶器株式会社」として誕生。当時、各地域の地場産業でも外資を稼ぐための国家的な政策がなされていたことを時代背景とし、当時、各地域の地場産業が外貨を稼ぐための重要な役割を果たしており、九谷焼をはじめとする陶器の輸出が盛んに行われていました。そのような時代背景の中で、特に強度のある硬質陶器を中心とした事業展開を目的に設立されました。
食器メーカーとして成長しながらその技術を活かし、浴槽の製品化や浄化槽の製造販売など日々の暮らしを下支えする事業にも参入。そういった中で高級志向の食器需要を汲み取り「ニッコーファインボーンチャイナ」を開発されたのです。
ボーンチャイナは、原料の土に牛骨を焼いた灰(ボーンアッシュ)を混ぜてできた磁器のことを言い、一般的にはやわらかな乳白色をしています。しかし、ニッコー様ではその白さを追求。ボーンアッシュの含有量を約50%まで高め、その他原料も厳選することで実現した白い食器は、料理を盛った際の食材の鮮やかさが際立つとホテルや名門レストランのシェフからも高く評価され全国各地で採用されています。
早速工場に足を踏み入れると、大きな機械が音を立てて動いていました。しかし、驚くことはその人の多さでした。ニッコー様ほどの大きな企業になればその注文数は計り知れず、機械化は必然。かなりの広さの工場にはたくさんの機械が並んでいますが、それと同じくらい機械を動かす人、粘土を型から外す人、焼きあがった素地を検品する人など様々な仕事を行う職人の姿があります。
陶磁器の開発や、製造原価管理全般にたずさわる小栗賢太さんは、「ニッコーのものづくりに人の手は欠かせない」と言います。「陶磁器を作るのは思っている以上に繊細。人の手ほど融通が利くものはないので、どうしても全て機械に頼ることはできないんです。特にニッコーの商品は精度がとても高い。品質チェックもかなりの回数を行いますが、必ず手や目、耳など人の五感を通した確認をしています」
ホテルや高級レストランでも食器を使用されるニッコー株式会社様では、そのクオリティ管理も大切にされています。使用する分には問題はなくてもその品質基準は大変高く、検査工程も3度ある他、その全てで抜き取り検査ではなく全品検査を行っているそうです。
今回私たちが依頼した酒瓶は、石膏で作った型に泥を流し込んで成形する排泥鋳込みという方法で作られます。日本酒のボトルは一見シンプルな形に見えますが、焼物として成形するには難しい部分もあったそうです。
「口に向かって細くなっていく形は、厚みの違いによって焼成の段階で傾きやすく、想定よりも調整が必要になりました。型から泥を排出する際に少しだけ回すように工程を改良したんです」と小栗さん。職人による繊細な作業とスピーディーな対応力が、精度の高い完成品をもたらし、それがニッコー様の技術力として製品に宿っているということを目の当たりにしました。
今回当社よりお声掛けをさせていただいたことについて小栗さんは「日本酒の瓶の制作は初めてのことでしたので、どれほどの精度のものに仕上げられるか、プロジェクトが始まる前から楽しみでした」と話します。
新たなものへ挑戦を恐れない姿勢は個々人だけでなくニッコー株式会社様の社風のようです。その成果に、ショールームには色とりどりの製品がずらり。豊かな発想をもとにした新商品は日々企画開発されているとのことで、それは食器製造事業だけにとどまらず、近年では、食器の廃材をリサイクルした製品の開発によって循環型社会を目指すサステナビリティへの取り組みにも力を注いでいるとのこと。
自然を大切にして酒造りをする当社もその取り組みに共感するとともに、お酒を飲んだ後廃棄されるのではなく作品として大切にされるボトル作りを、サステナブルな考えの根付いたニッコー株式会社様と行えたことは、それだけで大きな意義があったように感じます。
ニッコー株式会社様の手によって丁寧につくられた瓶は、ハッとするほどに真っ白。それは多くの技術と思いをもって作られたものであり、豊かな自然の中で農口杜氏が醸す山廃純米大吟醸酒を詰めるのにふさわしい美しさを放っていました。
手にしていただいた皆様には、きっとこの職人仕事の素晴らしさを五感で感じていただけるのではないかと思います。ぜひ新春の祝い酒と、その余韻を趣ある設えとしてお楽しみください。
次回vol.2では、この美しきボトルに田村星都様が描き込む文字と絵付けの様子をお届けいたします。